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最高裁判所第一小法廷 昭和30年(あ)1144号 判決

主文

原判決を破棄する。

被告人池永清真を懲役八月に、被告人池田一夫を懲役六月に処する。

但し二年間右各刑の執行を猶予する。

第一、二審における訴訟費用中別表記載の分は、被告人両名の連帯負担とする。

理由

広島高等検察庁検事長岡本梅次郎、被告人池田一夫の弁護人中川鼎、並びに被告人池永清真同池田一夫両名の弁護人三浦強一同吉田正之の各上告趣意は、末尾添付の別紙各書面記載のとおりである。

検察官の上告趣意第二点は、事実誤認の主張であり、同第三点は、量刑不当の主張であり、また、被告人池田一夫の弁護人中川鼎の上告趣意第二点は、事実誤認の主張であり、被告人池永清真、同池田一夫の弁護人三浦強一、同吉田正之の上告趣意第一点は、違憲をいうが、その実質は、単なる訴訟法違反、事実誤認の主張を出でないものであって、いずれも、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

しかし、職権を以て調査すると、原判決は、その判示によれば、三浦弁護人の控訴趣意第一、二点の事実誤認の主張、並びに、中川弁護人の控訴趣意第一点の事実誤認の主張に対し第一審判決の事実認定に誤認ないものと認め、ただ職権を以て原判決(第一審判決)の法令適用の適否を検すると、本件は原判決(第一審判決)認定の事実によれば、被告人等は、本件物件を委託関係に基いて占有していたものではなく、誤って占有した物件を横領した場合にあたるものであって、結局第一審判決は事実認定に誤りはなく、ただ法令の解釈、適用を誤った違法があるものとして第一審判決を破棄したものであること明白である。そこで、原判決の是認した第一審判決の確定した罪となるべき事実を見るに、同判決の判示は、被告人池永清真は、広島市宇品町所在の株式会社宇品造船所正門前の空地に、同造船所が中国造船連合会の委託によって保管していた同連合会に転用払下済の本件ケーブルを未転用のものと誤信しこれを自己に転用を受けるために、先ずその占有を確保すべく、当時広島県転用課嘱託として旧軍用物資(所謂「特殊物件」)の転用に関する事務を担当していた永井福一名義の「宇品町及び宇品県有埋立地附近に散在せる未転用未整理特殊物件の集荷を広島市第一工業株式会社代表社員山崎万次郎に依嘱する」旨の集荷依嘱書を入手し、その頃同会社の事務全般を掌っていた内村葆等をして右依嘱書によって右ケーブルを前記場所から引取り判示場所に搬入せしめてこれを占有するに至ったが、被告人池田一夫においても当時右作業に立会し指図をしたりしたもので、しかも、右引取の際に宇品造船所営業課長番匠稔から右ケーブルが前記造船連合会から保管を委託されたものであることを理由として抗議がなされ、そのことは内村葆から被告人池永清真に報告されたが、同被告人はこれを取合わなかったというのである。されば、第一審判決の認定確定した被告人等の本件ケーブルの占有は、前の占有者である宇品造船所の抗議にも拘らず、広島県転用課の集荷依嘱書によって、同書にいわゆる未転用未整理特殊物件として同県のためにこれをなしたものであって、ただ被告人等は本来依嘱の範囲に属しなかった物件をその範囲に属するものと誤信したに過ぎないものといわなければならない。従って、原判決が第一審判決の認定確定した占有関係を以て誤って占有したものに当るとし、刑法二五四条を適用したのは、結局法令の解釈、適用を誤った違法があって、原判決は刑訴四一一条一号により破棄しなければ著しく正義に反するものと認めざるを得ない。

以上のごとく本件犯行は単純横領で処断すべきものであるから、検察官の上告趣意第一点、中川弁護人の上告趣意第一点、三浦、吉田両弁護人の上告趣意第二点において主張されている論旨の理由なきことは明白である。

よって、刑訴四一三条但書により被告事件について更に判決をすることとし、原判決の是認した第一審判決の確定した事実に法令を適用すると、被告人池永清真及びその指示を受けて本件ケーブル約三〇巻(約三〇米乃至二五〇米の長さのものをドラムと称する木の枠に巻いたもの一個を一巻とする)を管理していた被告人池田一夫は、互に意思を通じて、その占有にかかる右ケーブルをその被覆ゴムの部分と芯線とを剥離して売却処分する意図の下に、被告人池田一夫において昭和二二年七月頃明星正明及びその輩下の人夫をして前記個所に蔵置してあった本件ケーブルを二、三〇米宛の長さに切断させその被覆を剥離した所為(その後の売却、返還等の判示は犯罪成立後の犯情を判示したものと認める)は、各刑法二五二条、六〇条に該当するから、その所定の刑期範囲内において被告人等を主文二項のとおり懲役刑に処し、情状刑の執行を猶予するを相当と認め同法二五条に則り主文三項のとおり右懲役刑の執行を猶予し、訴訟費用の負担につき刑訴一八一条一項一八二条に従い主文四項のとおり被告人両名の連帯負担とすべきものとする。

よって、裁判官全員一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 斎藤悠輔 裁判官 真野 毅 裁判官 岩松三郎 裁判官 入江俊郎)

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